シニアの「内因性うつ」について紹介!病気との向き合い方と治療方法

メンタルケア

 

「動くことも食べることも嫌になる」
「焦りと体のつらさで心から休むことができない」
「何かとんでもないことをしたという妄想から抜けだせない」

これは、「内因性うつ」を発症したシニアの症状です。実際に「内因性うつ」の渦中にいるシニアには、言葉に表すことのできない苦しみもあると考えられます。

「内因性うつ」とは、発症の原因が「脳の何らかの不調によるもの」としか分かっていないうつ病をいいます。

うつ病の原因というと、大切な人の死や人間関係のストレス、大きな事故や災害の体験など「心理性うつ」の原因を思い起こす人がほとんどです。

さらに、シニアがうつ症状を発症すると、「年が年だから元気がなくなっても仕方がない」「シニアだから病気の治りが遅いのは当たり前」という意識で見られます。

脳の何らかの不調で「内因性うつ」となったシニアを、正しく理解する人は少ないのです。

シニアは、それまでの人生で多くの艱難辛苦を乗り越えてきています。個人差はあるにせよ、多少のストレスでは「うつ」にならない耐性があります。

それでも、どうしようなく苦しい「うつ症状」になるのは、「内因性」の「うつ」だからです。

シニアに多い「内因性うつ」について紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

 

シニアのうつ(内因性)についての誤解を正していく

 

 

「シニアのうつ」で多いのは、脳の何らかの不調が原因の内因性です。ただ、原因の詳細については分かっていません。

しかし、うつには脳機能の不調という内因性の原因によるものがあると理解していることと、うつだから心理的ストレスが原因だと決めつけてしまうのとでは大きな隔たりがあります。

内因性うつと心理性うつは、現れる症状は似ていますが、内因性は心理性に比べて重篤になりがちです。内因性に対応した治療を始めないと、苦しい毎日を続けることになります。

一般に理解されている「うつ症状」についてまとめました。

 

気分が憂うつ
やる気がでない
食欲が落ちる
ぐっすり眠れない

 

このような症状から、数日から一週間で立ち直れるなら正常範囲のうつです。しかし、2週間3週間と続くようであれば病的なうつということになります。

シニアが病的なうつの症状になったとき、様々な誤解が内因性うつの治療の開始を遅らせてしまうことがあります。

ここでは、その誤解を正していきます。

 

✖要因は精神的ストレス  〇精神的ストレス以外が中心

 

シニアは、精神的ストレスがなくても「うつ」になるという認識が重要です。

もちろん、精神的ストレスによる「うつ」が全くないということではなく少ないということです。逆に、シニアより若い世代では心理性うつが中心ですが、一定数の内因性うつも見られます。

そして、前述の通り、脳の機能の変調が原因だということしか確実なところは分かっていないのです。

 

✖高齢者うつは治りにくい 〇十分な治療で多くは治る

 

シニアのうつの治療に必要なのは、服薬と休養です。

この2つが適切に行われれば治療期間に個人差はあっても、8~9割の人は発症以前の状態に戻すことが可能な病気なのです。

「体力や身体機能が低下しているから治りにくい」「年だからこれくらい元気になったらいいだろう」という、印象からくる思い込みは捨てましょう。

 

✖具合が悪いのは気のせい 〇身体不調はよくある

 

うつの状態になると、シニアに限らず、身体的な不調を伴うことが多いです。身体全体のだるさ、頭の痛みや重い感じ、胸が押されているような息苦しさ、手足のしびれなどの言いようのないつらさや苦しみです。

しかし、シニアは、ふだんから様々な不調を言いがちだと思われているため、「また、はじまった」ぐらいに聞き流されしまいます。

そうなると、シニアの不調の訴えは、しつこくオーバーになりがちで、周囲との溝は深まるばかりです。

 

✖栄養と運動で治る 〇栄養と運動では治療できない

 

充分な栄養を摂って、適度な運動をすれば、シニアのうつにはならないとか治っていくというのは全くの見当違いだといえます。シニアのうつだけでなく、内因性のうつの発症と栄養や運動は関係ありません。

栄養と運動は、健康的な生活をおくるための重要なポイントであるという先入観があり、そのように考える人が多いのです。

例えば、鉄という栄養素が不足すると、全身に酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビンが十分につくられなくなります。そうすると全身に倦怠感が起こり、気力や食欲が落ちてきます。

これは、鉄欠乏性貧血で生じた「身体性疾患」が引き起こした「うつ状態」であり、シニアに多い「内因性うつ」ではないのです。

 

✖認知症だから仕が方ない 〇認知症とは全く別もの

 

シニアがうつの状態になると、認知症の影響だからどうしようもないとか、年だから元気がなくなっても仕方がないと考える人がいます。

認知症や年齢だからと周囲の人がシニアのうつの治療を諦めることは、本人のつらさや苦しみを引き延し、自暴自棄にさせるという最悪の結果を招きかねません。

認知症は根治しませんが、シニアのうつは、ちゃんと治療すれば治る病気であることを忘れないであげてください。

 

 

シニアのうつには3種類あるって知ってますか?

 

 

 

シニアのうつは大きく分けて3つあります。脳の不調が原因の内因性うつ、心理的なきっかけにより発症する心理性うつ、身体的疾患によるうつ状態の3つです。

うつ状態となったシニアの9割は、内因性うつだとされています。

 

薬でなければ治らない内因性うつ

 

シニアの内因性うつは、原因不明の脳の不調で起きます。きっかけとなる明確な原因はつかめていません。

ただ、病気の誘因となるものは見つかっています。それはささいな心配事や軽い病気です。「これほどの苦しみが、こんなささいなことが原因で起きるのか」というぐらいのことです。

そして、いったんうつ状態に陥ると、心配事や病気が回復しても、状態は悪くなっていきます。

 

重症化すると無言・無動の昏迷状態になる
ありえない事実を思いこみ妄想を引き起こす
深刻に思いつめ死にたい気持ちになる

 

このような状態になると、周囲の人の言葉を素直に受け取ることはできなくなります。一刻も早く医療機関を受診すべきです。

 

現実の悩みで発症する心理性うつ

 

心理性うつは、はっきりとした原因に反応して発症します。現実の悩みを抱え込んでしまい、身動きのとれない状態になってしまうのです。

その悩みが解消すれば「うつ」も消えていくのですが、対人関係など自分だけでは解決できない悩みの場合、長引いてしまいます。

心理性うつの治療は、一般的に環境調整と精神療法の2本立てで行われます。

環境調整とは、現実の悩みを軽減させるための対処法を見出していくこと、精神療法は悩みに共感し和らげながら精神的負担を少なくしていく治療です。

この2つの治療が効果をあげきれない場合、セロトニン系抗うつ薬の服用など、薬物治療も必要となってきます。

 

身体疾患が引き起こす「うつ状態」

 

シニアに、うつの状態が長く続くとき、最初に疑わなければならないのが身体疾患による「うつ」だとされています。

気分が落ち込み、食欲が低下し、元気がなくなるなどの症状で精神科を受診しても、最初に行われるのは身体検査です。

発熱や痛みなど一般的な身体の不調だけでなく、すぐには原因の分からない身体疾患の場合もあります。いずれにしろ、疾患が改善されることによって、うつ状態も解消されていきます。

身体疾患による「うつ」で一番難しいのは、内因性や心理性の「うつ」を併発しているケースです。

例えば、脳梗塞の後遺症を原因とする「うつ」では、内因性や心理性の治療も同時に行われることがあります。

シニアは身体に複数の病気を抱えていることが多いです。慢性病や生活習慣病と呼ばれる病気で、服薬の種類も多くなっています。

シニアは若年層よりも、身体疾患が引き起こす「うつ状態」にも注意が必要なのです。

 

 

シニアのうつ(内因性)の治療は薬物療法と通電療法

 

 

シニアの内因性うつでは、身体的治療が必要です。身体的治療とは、薬物療法と通電療法です。

 

薬物療法|用いられる6種類の薬

 

シニアの多くは、精神科関連の薬の服用は初めてであり、不安と抵抗感をもちます。このとき、医師は以下の3つを念頭に処方します。

 

安心して飲める薬
副作用がでないか極力少ない薬
錠数が少なく1日1回の服用でいいもの

 

ここでは、一般的に用いられることが多い、6種類の薬について見ていきます。スルピリド、ミルタザピン、サインバルタ、ノリトレン、炭酸リチウム、クエチアピンの6つです。

 

スルピリド

 

スルピリドは、体内のホルモンを司る内分泌系に作用し、神経伝達物質であるドパミン系を活発にする効果があるとされています。

軽症から比較的重症なケースまで用いられ、服用開始後1~5日という早さで効果が現れるのが特徴です。ただ、一週間飲んでも全く変化が見られない場合は、この薬は効かないということになります。

 

ミルタザピン

 

ミルタザピンは、睡眠効果もある抗うつ薬で、神経伝達物質のセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを増やすことで「うつ」に対する効果を発揮するとされています。

睡眠への効果は飲み始めた日から現われ、数日飲むと食欲が向上し、一週間ほどで効いてくるという薬です。

副作用は少ない薬とされていますが、まれに、眠気がとれず朝食が食べられないとか、逆に食欲がですぎて体重が増えるということがあるようです。

 

サインバルタ

 

サインバルタも、神経伝達物質のセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを増やす抗うつ薬です。

痛みやしびれの緩和にも効果があり、糖尿病の神経障害や変形性関節症の痛みなどに、内科・整形外科でよく使われています。

副作用として挙げられるのは、吐き気や頭痛、立ちくらみや排尿困難です。副作用は一般的に経度とされますが、重くなる兆候が見られる場合はすぐに中止されます。

 

ノリトレン

 

ノリトレンは、古くからある三環系(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンを増やす)抗うつ薬です。最も効果に対する信頼性が高い抗うつ薬とされています。

副作用としては、口の渇き、眠気、便秘などあり、用量が増えてくると、血圧低下、尿が出づらくなる、物忘れなどに注意が必要です。

 

炭酸リチウム

 

炭酸リチウムは気分安定薬とも言われ、双極性障害(躁うつ病)に用いられる薬です。気分をそう状態にもうつ状態にもせず、正常な気分に近い一定の幅に収める効果があります。

抗うつ薬の作用が増強され、症状の改善に大きく貢献する薬剤とされています。

しかし、炭酸リチウムは、副作用に厳重な注意が必要です。吐き気、嘔吐、四肢のふるえなど、重篤な中毒症状が現れることがあるからです。

定期的な血中濃度測定と血液検査による、炭酸リチウムの血中濃度のコントロールが必要になります。

 

クエチアピン

 

クエチアピンは、抗精神病薬に分類され、統合失調症に対して投与されることが多い薬です。脳機能の過剰な活動を和らげる効果があるとされています。

身体疾患や薬剤によって脳に起きる、「せん妄状態」にも効果を発揮します。

シニアのうつの症状の中でも特に、「そわそわ」や「イライラ」で、いても立ってもいられない症状が顕著なときに処方される薬です。

副作用としては、用量が過剰になると、過眠や過鎮静の症状がでます。国内では、糖尿病の人には使用が禁止されています。

 

通電療法|手順と副作用について

 

通電療法は、高齢者うつだけでなく、すべての年代に対して施行されている治療法です。全国の総合病院や一部の精神科病院で実施されています。

欧米やアジアなど、世界中で通常の医療行為となっているのですが、一般にはあまり馴染みがありません。逆に「電気ショック」というイメージが強く、不安を覚える人も少なくないはずです。

ここでは、通電療法の手順と副作用について概要を見ていきます。

 

通電療法の施行前に行われること

 

通電療法は、焦燥や妄想が強固で自殺の危険があるか、無言・無動の昏迷状態が続いている場合で、薬物療法による効果が十分に得られないときに用いられます。

適切な手法で行われれば、ごく少数の例外を除いて、すべての例で一定の改善が得られる療法とされています。

施行には、療法の詳しい説明の後、本人の同意が必要です。本人の意思が確認できない場合は、代理人家族の同意が必要です。

 

施行前の検査|胸部・腹部のレントゲン、頭部CT、頭部MRIなど
施行前の準備|通電による影響を避けるための服用薬の調整

 

通電療法は、患者や家族の同意と、患者の健康状態をチェックした後施行されるのです。

 

通電療法の手順

 

通電療法の手順をまとめました。

通電前
・医師によるバイタルサイン(体温・脈拍・血圧)が正常であることを確認
・患者は術衣に着替え、ストレッチャーで通電する手術室に移動
・手術室で麻酔科医師が留置針を刺し、点滴の準備をする
・精神科医師は通電用電極を、患者の頭部とこめかみに貼り付ける
・麻酔科医師が酸素投与後に麻酔薬を点滴し、患者は眠りにつく
・患者の意識がないことを麻酔科医師と精神科医師が確認
・筋肉弛緩薬を点滴で投与、酸素マスクで換気呼吸にする
・念のためマウスピースを患者の葉の間にはさむ
通電
・精神科医が通電治療器の「治療」のボタンを押す
・設定した電気用量を、2~8秒間、患者の頭部の電極に流す
・血圧上昇・脈拍急増・左足のけいれんなどが30~60秒間続く
・通電中の脳波と心電図がモニター記録紙に記録される
通電後
・通電後、徐々に換気呼吸から自発呼吸に移行
・酸素投与を続けながら10~30分待機して病棟の自室に戻る

 

以上が通電療法の流れとなります。

 

通電療法の副作用

 

通電療法の副作用は、通電直後の頭痛、吐き気、めまい、発熱などがあります。いずれも軽微で、一時的なものとされています。

リスクが高い副作用としては、不整脈、気道閉塞、心筋症などがあります。ただ、麻酔科医師による呼吸と心電図のチェックがあり、何かあれば必要な対処がなされます。

通電療法を受けた人のうち、五割程度が一時的に記憶障害をもつようです。過去の出来事や最近の記憶があいまいになるのです。

しかし、ほとんどは、治療終了後1ヶ月以内に回復します。

 

シニアのうつ|まとめ

 

 

シニアは、若年層よりも多くの病気を抱えがちですが、そのなかに「シニアのうつ」という病気があることを知ってほしいと考え紹介することにしました。

シニアのうつは、ほとんどが「内因性」とされ、周囲の人はもちろん本人さえ原因がわからないまま発症します。

他の病気ではありえないような苦しい症状が本人を襲いますが、内因性のシニアのうつは、身体的な療法で治すことが可能な病気です。

すべての心の病がそうであるように、シニアのうつも、先入観や思い込みを持たないことが早期治療につながります。

少しでも早く回復し、以前のような生活を取り戻すことは、そのあとを生きる「力」となります。

参照書籍
高齢者うつを治す-「身体性」の病に薬は不可欠
著者 上田 諭  発行所 株式会社日本評論社

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