「人前で話しをしたり何かをしたりのするのが怖い」
「人に見られながら字を書こうとすると手がふるえる」
「公の場で人と一緒に飲食するのが嫌で仕方がない」
人前に立つとドキドキして頭が真っ白になり、しっかりしなければと思うほど緊張するというのは、程度の差を別とすれば、誰でも経験することです。
しかし、レストランや居酒屋で他の客がいるというだけで飲食ができなくなるというのは要注意です。社交不安症かもしれません。
どんな人も、人との様々な関わりの中で生きています。人と接することが苦手であるということで、実力を発揮できなくて悔しい思いをしたり、正当な評価をされなかったりでは辛すぎます。
社交不安症とは何かを理解することで、対処法が見えてくるはずです。
社交不安症の症状と原因、解消するための方法を紹介しますので参考にしてください。
社交不安症で現れるさまざまな症状
社交不安症は、かつて対人恐怖症と呼ばれ、日本人特有の症状と考えられていました。
しかし、欧米でも多くの人がこの症状に悩まされていることがわかり、社交不安症(Social Anxiery Disorder)と名付けられ、現在のような概念もできたのです。
社交不安症の特徴的な症状について見ていきます。
人の視線が不安や恐怖を生む
社交不安症の人が大勢の人の前でスピーチをしなければならないと仮定してください。
実際にスピーチをする何時間も前から、上手くできるだろうか、聞く側の人たちはどう思うだろうかという不安と恐怖でいたたまれなくなります。
スピーチを始めると、自分に注がれる視線に緊張し、周囲の人に自分はどう映っているかが気になり原稿を読むどころではなくなってしまいます。
そして、自分の今の状態を観察するもう一人の自分が現れ、「声が裏返った」「顔が真っ赤だ」「汗だくになった」というような体の症状を強く意識させるのです。
スピーチが終わると、大抵はすぐに症状がおさまるものです。
しかし、社交不安症の人は、その後も一定時間症状が消えず、苦痛を抱えて過ごさなければなりません。
拒絶過敏症で行動を制限する
社交不安症の人は、常に対人関係に不安を抱えているため、人からダメ出しされたり拒絶されたりすることを極端に恐れる拒絶過敏症に陥ってしまいます。
今のような自分では誰からも相手にされなくなる、変な人と思われている、陰で悪口を言われているなどと勝手に思い込んでしまうのです。
ますます不安がつのり、人と接する機会を少なくすることを考え、回避行動をとるようになります。嫌な思いをするくらいなら孤立したほうがましだと思うのです。
拒絶過敏症による回避行動は、日常生活の制約を大きくするだけで、根本的な解決には結びつかないことに気がつけないのです。
緊張の連続で起きる体の変化
社交不安症の人の症状をまとめました。
・スピーチ恐怖|人前で話すことに強いストレスを感じ極度の緊張状態になる
・電話恐怖|自分の話しを他人に聞かれることが嫌すぎて声をだせない
・視線恐怖|どんな場所でも他人の視線が気になりどこを見ていいか分からなくなる
・会食恐怖|自分の食べている姿を他人に見られることに苦痛を感じてしまう
このような症状が続くと、体にも変化が起きてきます。
・体がふるえる(人に見られながら字を書いたりキーボードを打ったりするときなど)
・大量の汗をかく
これらの体の変化が気になり、さらに恐怖がつのるという悪循環に陥るようになっていくのです。
社交不安症の原因は不安とトラウマ
社交不安症は、「努力すれば治る」「気の持ち方でどうにでもなる」というような病気ではありません。そして、放っておくと、より深刻な問題につながっていく病気なのです。
社交不安症を正しく理解するために、原因について見ていきます。
心の底にある不安が背景に
人が安心して生活していくためには、「社会的な安心感」と「生命の安心感」の2つが必要だとされています。
社会的安心感とは、周囲の人(特に家族)から、「認められている」「尊重されている」と感じることです。
生命の安心感とは、極度の貧困や虐待がなく、衣食住が保証されているという安心感です。
どちらかが欠けると、心の安心感が損なわれ、不安を抱えたままの大人になってしまいます。
社交不安症の発症に影響するのは社会的不安です。特に、親という身近な存在からの愛情を実感できていない人の発症が多いようです。
不安体質とトラウマで過敏に
社交不安症を発症する人には2つのケースがあります。
まず1つ目は、幼少期から発症し、思春期の自我の目覚めや他者への意識が高まる頃に自覚するケースです。人見知りで内気なうえに、不安になることに敏感な「不安体質」を抱えています。
次に、人前で恥をかいたという経験が積み重なって発症するケースです。特に多いのが、中学生くらいのときに、人前で恥ずかしい思いをしたのがきっかけで思春期に発症するケースです。
このケースでは、元々もっている不安体質や性格は関係ありません。
脳のアンバランスとの関係性
不安や悲しみ、喜びなどの感情は、すべて脳の働きによって起こります。
不安や恐れの記憶をつかさどる脳の部位についてまとめました。
・扁桃体|不安や恐怖を感じる部位で体にとっさ的な反応を引き起こす
・前帯状皮質|脳の内側にあり認知と感情を関連付ける部位
・前頭眼窩|目のすぐ後ろにあり「意思決定」や「個性」に関わる部位
・島|脳の奥にある部位で急な感情の制御や自意識に関わる
社交不安症の人は、以上のような部位が過活動になっていることが多く、脳の働きのバランスが崩れて不安を強めてしまっているのです。
また、注意欠如や多動性障害など、発達障害を持つ人が社交不安症を併発するケースも報告されています。
社交不安症の解消は自己肯定から
社交不安症が進むと、人と関わりを避ける傾向が強くなっていきます。学校や会社で人と接することが苦痛になり、不登校や休職、退職を繰り返すようになるのです。
さらには、依存症やうつ病を併発したり、引きこもったりする事態へとつながっていきます。そうなる前に対処していく必要があります。
社交不安症の人は、まず、自己肯定感を強く意識することが重要です。そのための方法を紹介します。
心療内科や精神科に相談する
社交不安症の特徴の一つとして、医療機関を受診する人が少ないということがあります。また、専門科以外を受診して、「異常が見当たらない」とされてしまうこともあります。
社交不安症ではないかと感じたら、精神科、精神神経科、メンタルクリニック、こころの外来を受診すべきです。心の不安が、あきらかに体に症状として現れている場合は心療内科になります。
ただ、精神科の医師の中には、うつ病専門で社交不安症には詳しくないという医師もいます。インターネット・書籍・公的機関などで事前に調べて、専門性の高い医療機関を選ぶようにしてください。
自分に安心を積み重ねていく
治療は、認知行動療法と薬物療法を併用して進められます。
・薬物療法|薬の働きで一時的に不安を和らげる
薬物療法では、薬が脳の機能に作用して不安や恐怖を抑えますが、服用を止めると症状は再発してきます。
それに対して、認知行動療法は再発が少ない治療方法です。ただ、安心感の育ち方には個人差があり、効果の実感には時間がかかります。
重要なのは、「自分は意外とできる」「自分はそれほど変わっていない」「他人はそんなに自分を見ていない」という安心を少しずつでも増やしていくことです。
「やればできるんだ」というプラス思考が、不安を減らし、安心を育てていきます。
マインドフルネスを実践する
マインドフルネスは、自分でできる認知行動療法として高い効果があります。
マインドフルネスとは、過去の経験や先入観にとらわれることなく、今の自分に五感を集中させることです。
マインドフルネスには、主に3つの方法があります。
・瞑想する|①呼吸に集中する②心に浮かぶことを評価しない③今起きていることを感じる
・今を意識する習慣を身につける|日常生活で起きることに自分の五感を集中する
重要なポイントは、今に集中して、過去を思いわずらい将来を思い悩むことにフォーカスしないということです。
マインドフルネスは、リラクゼーションの一つであり、不安で疲れた脳を休ませてくれます。
休ませてリフレッシュできたら、これまで恥ずかしくてできなかったことや緊張してしまうことに、少しずつ挑戦してみてください。
そして、ほんのわずかでも成功したら、「自分を褒めてあげること」を忘れないのが一番重要なことです。
社交不安症|まとめ
社交不安症の症状と原因、改善する方法について紹介しました。特に、自分でできる認知行動療法として、「マインドフルネス」についてもふれました。
また、規則正しい生活や身の回りの整理整頓にも、不安にとらわれやすい性質を改善する効果があるとされています。
社交不安症は、幼いころから発症しているケースがほとんどです。
もし、あなたの家族や身近なところに、社会不安症を疑うお子さんがいたら、恥ずかしがらずに「あなたが大好きで大切に思っているよ」と声をかけながらハグしてあげてください。
この「ハグ療法」が、最高の効果をあげると報告する医師は多いです。