パニック障害という病名は、広く世間に知られるようになりましたが、その実状について理解している人はまだ少数でしょう。
どんな病気も周囲の理解は重要ですが、パニック障害においては、特に周囲の無理解は患者を孤立させ治療のマイナスになるとされています。
パニック発作のとき、生命の危機を感じた人と同じようなことが、患者のなかで起きています。
しかし、パニック障害の患者は、どんなに検査しても内科的な異常は見られないことがほとんどです。それが、この病気をさらに困難なものにしているのです。
厚生労働省によれば、一生の間にパニック障害になる人は1,000人に6~9人とされています。
パニック障害について正しく知ることで、無理解という仕打ちで患者を傷つけることだけは避けなければなりません。
パニック障害で起こる症状とは
パニック障害の患者が、どのような症状にさいなまれ、病気が進行していくのかを紹介します。
心と体に現れる様々な症状
パニック発作は、このまま自分は死んでしまうのではと感じるほどの痛みと恐怖を伴います。その発作の症状をまとめました。
- 息が切れ、息苦しくなり、うまく呼吸できなくなる
- 窒息するような感覚に襲われ、強い恐怖感が起こる
- 心臓が破裂する、口から飛び出すと感じるほどの動悸
- 手足の小刻みな震えや全身がけいれんするような動き
- 胸がチクッと痛んだり、胸全体が不快になったりする
- めまいがして頭がふらつき、血の気が引いていく感覚
- 強い吐き気が襲い、腹部がぎゅっとつかまれるような感覚
- 体全体を冷たいと感じたり、頭や顔が熱いと感じたりする
- 体の感覚がにぶくなり、不快なしびれやうずきを感じる
- 現実感が失われ、意識を喪失しそうになる
- 強い不安や恐怖で、このまま気が変になりそうで怖くなる
- 激しい心臓症状や呼吸困難で死への恐怖を感じる
重篤な病気になったときの痛みや苦しみは本人にしかわかりませんが、それを思いやり、寄り添うことは可能なはずです。
発作は前ぶれもなく始まる
パニック障害での発作の特徴は、前ぶれもなく、何の引き金になる状況もないのに起こるということです。急速にピークになり、10~15分継続します。
パニック発作は、社交不安症やPTSDでも起こりますが、発作を起こす理由や状況が必ずあるものです。
最初の発作から2回目までの発作の間隔は、数週間が一番多く、2回目以降は連続して起こるようになります。体の検査をしても何の異常も認められません。
発作は昼夜関係なく起こり、睡眠時の発作は、患者の40%が経験しているとされています。
発作の記憶が不安を生む
いつ起きるか分からない発作への不安が消えなくなることを、予期不安といいます。パニック発作と、この予期不安がパニック障害を同定する症状です。
予期不安には、人によって違いがあります。
- 発作で取り乱した姿を人前にさらしたくない
- 発作で誰かに迷惑をかけてしまうのではないか
- 次の発作では誰も助けてくれないのではないか
- 一日中発作のことが不安で仕事が手につかない
- 発作は何か重大な身体的疾患のせいではないか
しかし、予期不安は、治療が進むにつれて消えていきます。また、起こるのではないかという思いが、必ずしも起きるとは限らないという気持ちに変化していくからです。
広場恐怖症・うつ病・依存症を併発する
いつ発作が起きるか分からないという高度な不安は、行動を制限し、意識を変化させます。それによって様々な症状を併発するようになります。
代表的なものとして、広場恐怖症、非定型うつ病、依存症を併発するようになるのです。
広場恐怖症は、発作が起こった場所や状況を避けるという回避行動から始まります。
パニック障害では、8割以上の人が特定の場所に恐怖を感じる広場恐怖症に陥るとされ、それが二次的対人恐怖症(社交不安症)につながっていく人もいます。
パニック障害から起こる非定型うつ病は、一般的なうつ病とは違い、不安うつ病とも呼ばれます。
いつもうつ状態にあるのではなく、まわりで起こる出来事で気分が極端にアップダウンするのです。体が鉛のように重く感じられ、過眠や過食になり、他人からのの批判や軽視に敏感になります。
また、不安から逃れるために、アルコール依存症を併発する人もいます。特に女性に多く、周囲に隠れて、大量の飲酒を続けるようになってしまうのです。
パニック障害とはどんな病気か
そもそもパニック障害は、どのような病気として位置づけられているのでしょうか。また、直接的な原因は何なのかを見ていきます。
パニック障害は不安症の一種
パニック障害は、不安症の代表的な病気とされています。
不安症には、前述の広場恐怖症や社交不安症の他、限局性(高所・閉所・先端など)恐怖症などがあります。日常の様々な事柄に過敏に反応する全般不安症も典型的な不安症です。
不安気質の人は多いですし、不安自体は危険回避のための防御反応という意味合いもあり、悪いことではないのです。
ただ、それが身体症状を伴うようになって、日常生活に支障をきたすようになると不安症として扱われることになります。
うつ病より苦痛と障害度は高い
パニック障害は、決して珍しい病気ではありません。
2005年に、各都道府県の男女を対象に行われた健康調査では、パニック障害の罹患率は3.4%となっています。米国での調査(3.5%)とほぼ同じ結果です。
パニック障害は、心臓神経症や過換気症候群と誤診されやすい病気でもあります。2000年代初頭には、ほとんどの臨床医がパニック障害を見落としていたとされる報告もあります。
また、パニック障害とうつ病を比較した場合、QOL(生活の質)のほとんどでパニック障害のほうが低くなっています。
パニック障害のほうが、アルコールの乱用、救急外来の受診、自殺の企図、経済的な問題、夫婦間のトラブルなどが多く起こっているのです。
パニック障害は、珍しい病気ではないと同時に、日常生活に影響を与えやすい病気でもあるのです。発作の激しさと不安の強さが原因と考えられます。
セロトニン不足による脳の機能障害が原因
パニック障害のような心の病気は、脳の機能障害によるものです。性格のせいや気持ちの持ちようではありません。
本来、不安や恐怖は、危険から身を守るために引き起こされます。そうすることで、危険に立ち向かう気力やエネルギーを奮い立たせているのです。
不安や恐怖という警報を鳴らす役割をするのが、脳の扁桃体や青斑核と呼ばれるものです。
扁桃体は人の情動の中枢で、身の回りの情報から恐怖感を呼び起こします。その恐怖感は中枢神経から青斑核に伝わり、青斑核はノルアドレナリンを放出し心拍数や血圧を上げて、危険との臨戦態勢を整えます。
このシステムが誤作動すると、パニック障害を発症するのです。
誤作動の原因となるのは、神経伝達物質のアンバランスです。このアンバランスは、セロトニン不足や、セロトニンに感応する神経の働きの弱さが原因であることが分ってきています。
パニック障害の診断と治療とは
どんな病気もそうですが、パニック障害も早く診断を確定し、早く治療を始めたほうが回復は早いのです。ところが、発作による動悸や胸の痛みがあるため内科を受診するケースが多く、診断の確定が遅れることが多くあります。
広場恐怖症やうつ病を併発して治療が難しくなる前に、パニック障害に詳しい医師に相談することが肝要です。
パニック障害は精神科を受診する
パニック障害は、心の病気です。受診すべきなのは精神科です。
精神科というと、何か怖い感じを受ける人もいるかもしれませんが、現在の精神科は明るい雰囲気を重視した通いやすい普通の診療科です。
パニック障害を疑って、専門医を探したいとき、ネット情報があります。ただ、もっと確実性の高い情報は、保健所や各都道府県の精神保健福祉センターで得ることができます。
パニック障害に詳しい医師の絶対数は、まだまだ少ないのが日本の実状ですが、良い医師や医療機関の探し方をまとめましたので参考にしてください。
医師
- パニック障害に精通している
- 心身ともに診(み)てくれる
- 薬をこまめに調整してくれる
- 会話がしやすく親身になってくれる
医療機関
- 居心地が良い
- 通いやすい場所にある
- 精神科・神経科・精神神経科を受診する
- 薬物療法だけでなく認知行動療法(後述)も充実している
薬と認知行動療法が治療の両輪となる
パニック障害の治療は、薬と認知行動療法の2つが両輪となり進められます。まず、薬で発作の症状や不安をやわらげ、認知行動療法を施していくのが定石です。
薬物療法とは
パニック障害の治療では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)とベンゾジアゼピン系が使われるのが一般的です。
まず、抗うつ剤のSSRIを第一選択薬とし、必要に応じて抗不安薬のベンゾジアゼピン系を用いるのが世界共通の使い方となっています。
薬物は飲むだけで、発作をコントロールし不安や抑うつを打ち消すことができますが、副作用や依存性の懸念があるため医師の処方通りに服用することが前提となります。
認知行動療法とは
認知行動療法とは、薬ではできない心理面での治療の代表的なものです。不安を生む考え方を見直し、不安な場面に自分を慣らしていく療法です。
副作用や依存の心配がなく効果は長く続き、再発が少ないとされています。やればできるという達成感も感じやすいです。
ただ、不安に直面したときにも負けない努力や根気が必要であり、費用や時間がかかります。
この他の精神療法としては、グループで助け合う集団行動療法や、心身をリラックスさせる自律訓練法などがあります。
パニック障害|まとめ
ここまで見てきた通り、パニック障害は心の病気です。
心の病気というと、本人の性格のせいだとか、気の持ちようのせいだという人が現在でもたくさんいます。
直接的な原因は、脳の機能障害であり、心臓病やがんと同じように体の疾患なのです。
心の病気を特別視するのではなく、誰にでも疾病の可能性がある病気だと周囲の人が認識できたら、患者の不安や恐怖はやわらぐはずだと考えています。