アルツハイマー病と2型糖尿病の基本的原因は「加齢」とされています。そして、両方とも、自分や家族が症状を認識する10年15年前に発病している病気です。
また、糖尿病の人がアルツハイマー病にかかりやすいことが、近年の調査で数多く報告されています。2つの病気の共通点が明らかになり、アルツハイマー病を「脳の糖尿病」と考えている医師が増えています。
アルツハイマー病と糖尿病に共通の重要キーワードがインスリンです。
インスリンをコントロールすることで2つの病気を予防したり、進行の速度を遅らせたりできる可能性について紹介します。
アルツハイマー病を「脳の糖尿病」と考える医師が増えている
糖尿病の人は、いろいろな形の脳血管障害になりやすいとされ、それがアルツハイマー病を発症させる最大の危険因子とされています。
ロッテルダムスタディという研究機関は、糖尿病はアルツハイマー病の発症リスクを2倍にするとしています。
日本でも九州大学第二内科の久山町研究により、予備軍を含む糖尿病者では、アルツハイマー病に罹患するリスクがそうでない人の2倍になると報告されているのです。
糖尿病による脳血管障害によってできる小さな脳梗塞(ラクナ脳梗塞)が、アルツハイマー病のような認知症の原因になるとされているのです。
海馬の細胞はインスリンをつくる膵臓の細胞と似ている
脳の中で記憶を担当しているのが海馬ですが、海馬の細胞がインスリンをつくるβ細胞と似ていることが、MRIなどの画像解析技術の発達で認識されるようになりました。
似ているというだけでなく、実際に、海馬でインスリンがつくられていることも分かっています。
つまり、膵臓で分泌されて血糖値の調節をしていることで有名なインスリンは、脳に働いて記憶物質としても重要な働きをしているということなのです。
アルツハイマー病のモデルラットに、インスリンを1回注入しただけで低下していた認知機能が回復される現象も確認されています。
脳細胞の代謝に必要なブドウ糖を、海馬に取り込まれやすくしているのがインスリンなのです。これが、インスリンによる記憶力回復の作用です。
インスリンが働かないとアルツハイマー病になる理由
インスリンのようなホルモンが細胞に作用するためには、細胞の表面にあるインスリンと特異的に反応する受容体が必要です。
ところが、アルツハイマー病や糖尿病の人の脳では、インスリンと受容体の作用がうまくいきません。インスリンがうまく働かないインスリン抵抗性の状態になります。
糖尿病、特に初期の段階では、膵臓は何とか頑張って血糖値を正常に保とうして働き、血中のインスリン濃度を異常に高めます。これもインスリン抵抗性になる大きな要因です。
また、インスリン抵抗性が続く脳では、記憶・学習・睡眠などに深い関係をもつアセチルコリンという神経伝達物質がつくられにくくなります。
・記憶物質としてのインスリンの働きが悪くなる
・アセチルコリンという神経伝達物質がつくられにくくなる
以上の2点が、インスリンが働かないとアルツハイマー病になる理由です。
アルツハイマー病と糖尿病には共通点が多い
ここまで紹介してきたように、アルツハイマー病と糖尿病には多くの共通点があります。したがって、アルツハイマー病の予防や症状の軽減に有効な習慣は、糖尿病と同じであると考えられています。
・治療薬は運動療法や食事療法と同時進行で内服すること
・禁煙する
・飲酒はしない
・朝食は必ずとる
・間食はなるべく避ける
以上は、糖尿病の予防や軽減のための習慣として推奨されていることですが、アルツハイマー病の人にも有効です。
運動療法として適当なのは、早歩き、ラジオ体操、サイクリングなどの有酸素運動です。
食事療法では、朝食はしっかりと、夕食は控えめにするのが基本です。朝食では、卵、チーズ、魚肉などの良質なタンパク質を摂るようにします。
運動療法や食事療法との併用は、治療薬の効果を確実にアップさせます。
禁煙は、アルツハイマー病予防では必須とされています。飲酒は記憶の消しゴムとも呼ばれていますから注意が必要です。
間食はなるべく避け、やむを得ずとる場合は、果実や牛乳、チーズやカシューナッツがおすすめです。
まとめ
この記事では、アルツハイマー病と糖尿病について、以下のことを紹介しました。
・アルツハイマー病は「脳の糖尿病」である
・インスリンは海馬でもつくられる記憶物質である
・インスリン抵抗性は海馬の働きを阻害する
・アルツハイマー病と糖尿病の予防のための習慣は同じ
現在、アルツハイマー病と糖尿病の患者さんは同じように増えています。高血糖による血管障害の怖さを理解して、生活習慣に注意していきましょう。